



近年、三次元測定機が計測室などの品質保証の現場のみならず、 製造現場などで量産品用の検査具として活用されることが見受けられる。
三次元測定機においては、そうした用途拡大とともに、ユーザー自身が日常的に機器の精度を管理することの必要性が高まっており、
弊社ではこのニーズに対する1つのソリューションとして、
自主検査ツールDimensionMaster(ディメンションマスター)を開発した。
ここでは、三次元測定機の精度管理の重要性やこれまでの課題を示しながら、
新しい検査ツールの有用性について紹介する。
三次元測定機が、比較的に環境変動の大きい製造現場などで用いられていくにあたっては、いくつかのリスク要因について事前に整理し、検査システム全体の妥当な管理手法を構築していく必要がある。
例えば
などが上げられる。
これらから生じる影響は、実用中においてはわずかな測定の誤差となって現れるため、
単純に製品の測定結果だけを見てその要因を特定することは難しい。
しかし、決められた基準器と、決められた方法でデータを出力することで、 個々の影響度を推測したり、対処方法を検討することは可能である。
その具体的かつ有効的な手段が、測定機の日常的な精度点検の実施であり、 特に、自動プログラムによる大量の繰返し測定が行われるような検査では、 精度トラブルの発生が及ぼす影響が思いのほか大きくなることから、 測定機精度の日常的な管理は、決して避けて通ることのできない最も重要な 管理項目となっている。
図1 JIS B 7440-2の概要 |
現在、国内の三次元測定機の精度検査には標準検査規格JIS B 7440が用いられている。 この規格は三次元測定機の構造に基づいた複数の誤差を区分けしながら 総合的な測定機の状態判定が可能となるため、 現在、主だった三次元測定機メーカーが納入製品の検査規格として採用している。 規格の詳しい内容(検査手順など)はJIS規格ハンドブック等で確認いただくとして、
ここでは本件に関連し、かつ重要なJIS B 7440-2(以降はこれをJIS検査する)の
指示誤差検査のポイントを図1にまとめた。 |
JIS検査は測定機メーカーが採用するような本格的な検査規格であるが、 これをユーザーが日常的に実施することを検討した場合、いくつもの難点が挙げられる。
以下、鋼製ステップゲージを使用した指示誤差検査のポイントを2つの側面に分けて整理した。
(1)精度面の課題
(2)作業面の課題
結論的には、JIS検査を日常的に実施するのは作業負荷上ほぼ不可能であると言える。 又、温度管理を含めた検査の経験や技能が不十分な場合に、検査自体の信頼性が確保できないという、日常的な運用には大きな課題を残しているといえる。
JIS検査の日常化が難しい場合、ユーザーは何らかの簡易的な検査方法考え実施することが必要となってくる。
そこで上げられるのが、JIS規格の付属書A「中間点検」としても記載のある、
マスターワーク(付属書ではアーティファクト)を用いた測定値の再現性確認検査である。
この検査は、ユーザーが自社製品などでマスターワークを準備し、その測定プログラムなどが作成できればすぐに運用が可能となる。
検査を実施した場合は、測定機に発生した何らかの精度面での変化の 「有無」をおおよそ判断でき、かつ比較的短時間で実施できるためにその実用性は高い。
しかし、一般的なワーク形状で得られる検査データでは、JIS検査法のように測定機全体の
精度を評価することは難しく、検査はあくまで類似品の測定を想定した場合の
トラブル回避が目的であることが多い。
又、マスターワークは表面粗度や幾何学形状の均一性及び経年安定性を
保証することがや、トレービリティーを確保することが難しいため、
ユーザーはこの日常検査とは別に、実績があり、国家標準にトレーサブルな基準器であるステップゲージ等を用いて定期的な校正を実施(メーカーへオーダー)しなければならないのが現状である。
ここまでに触れた内容を総合すると、現状ユーザーが取りうる 三次元測定機の精度の管理手法はある1つのスタイルに集約される。

図2 検査手法別の特徴
ここで図2でそれぞれの手法の性質を整理してみると、 2つの検査においては互いの不足な点を補完する関係が成り立っており、 この併用スタイル選択することが妥当あることが理解できる。
事実、弊社においても、このスタイルを基本に測定機を管理し、長らく業務を行ってきた。 しかし最近に至って「ある状況の変化」により、マスターワーク(基準器)の改良が 可能となったことで、このスタイルとは異なった選択肢が実践できる状況になってきた。
それがある意味でユーザー検査の「理想像」ともいえる
「日常的に実施できるJISレベルの検査」である。
この後紹介する写真2「DimensionMaster」こそ、その方法を具現化し、市場で広く実践
できように弊社が製品化したものだが、
まずはその開発の経緯となる、「ある状況の変化」を2つ説明する。
三次元測定機の校正においては、前述のとおり、長さの国家標準とトレーサブルな基準器として主にステップゲージやブロックゲージが用いられてきた。
そのステップゲージの基本的な素材はスチールであり、その熱膨張係数はおおよそ10~11ppm/Kである。 熱膨張係数とは、素材が1mの場合の1℃あたりの変化量であり、その単位はμmである。 すなわちスチール製の基準器においては、検査時の検出温度に1℃の誤差が 発生すると、1m先で10~11μmの誤差になって現れるということになる。
この値は、現在普及タイプとなっている中価格帯の三次元測定機の許容指示誤差が 長さ1mあたりで±5μm程度であることを考えると。 決して小さくないことが理解できる。
この点は測定機メーカーも検査技能の徹底を図り、対応しているようだが、 一部の高精度なハイエンドモデルについては、検査精度を確保するため 特有の手法をとっている。
それが、温度変化の極めて少ない低膨張ガラスの基準器を使用して、
温度に関連する校正の不確かさをできるだけ小さくするという校正方法である。
図3 NEXCERA熱膨張率グラフ |
これまで低膨張ガラス製の基準器は、一部の専門的な機関が活用するだけで、 図3はNEXCERA™の熱膨張率を表したグラフである。 |
グラフのとおり、NEXCERA™は20℃で膨張率が0になる性質にくわえ、-20℃から60℃の 実用温度において極めて小さい膨張率を示す。 その熱膨張係数はメーカー保証値で0。05ppm/k以下、 校正実務上では実質「0」として扱えるという優れた特性である。 又、密度がアルミ以下と軽い反面、ガラス素材に比べ強度の向上が図られていることや、 数年の実験により、経年変化が極めて少ないことなどが立証されている、 こうした総合的な機能性が着目され、 近年では(独)産業技術総合研究所を中心とした複数の公設研究所間で検証が 行われるなど、実用化研究が進められ、 現在、大手測定具メーカーからブロックゲージとして市販化されるにいたった。 今後はますますこの分野でNEXCERA™の活用が広まるものと予測される。 |
|
基準器に関わることで、もう一点状況の変化がある、 標準検査規格JIS B7440は、国際規格ISO10360の翻訳版であり、 ISOでの規格改訂に応じて定期的にその内容を反映する形を取っているが、 このISOの最新の改訂(2009年版)において、これまで推奨としてきたステップゲージ やブロックゲージに加え、ホールやボールを用いたゲージなどが具体的な基準器とし て例示されるに至った。
これに伴い現在JIS規格でもホールやボールを用いたゲージを規格に盛り込む準備が 進めており、今後、そうした新たな基準器の普及が見込まれるようになってきた。
写真1 ボールバー基準器 |
次期JIS規格で採用が見込こまれるボールを用いた基準器とは主に写真1のようなものである。 しかし、ボール自体は極めて真球度の良好なものを採用することが求められる。 その理由は、この基準器が、ボール表面を数点プロービングすることで得られる |
この真球度は基準器を製作する上で最も重要な条件であり制約でもあるが、
一方で最大のメリットも生み出している。 |
|
ここで以上を総合する形で改めて弊社が昨年11月にリリースしたDimensionMaster
(ディメンションマスター)を紹介する。
DimensionMaster(写真2)の基本仕様は、構造部の素材が前述の低膨張セラミック
「NEXCERA」、ボールがマスターボールと同等の高真球セラミックボールであり、
JIS検査で規定された検査方向のうち2方向を1回でカバーできるデザインとなっている。
(さらに本体を90度づつ回転させて検査することで全6方向をカバーする)
更にマスター自体の校正を、国家標準の提供元の(独)産総研計量標準総合センター
で高精度に実施できることも特筆すべき点である。
製品の詳しい情報は、別途確認いただくとして、DimenisonMasterの特徴をまとめると
![]() |
|
となる。
DimensionMasterはこれらの特徴によって、日常的に運用することが可能でありながら、
その蓄積データをもって定期校正レベルの評価が可能になるという、
これまでにない新しい検査スタイルが提案できるようになっている。
写真3 検証機器LEGEX9106 |
DimensionMasterの開発にあたっては様々な実験検証を実施てきたが、
ここでその能力を確認した1例を紹介する。 |
写真4 比較したゲージとマスター |
、そのため、
検証では、現行考えられる最も理想的機器として0膨張ガラススケールを
搭載した㈱ミツトヨ製LEGEX9106(写真3)、JIS用基準器に0膨張ガラス製ブロックゲージ
(写真4左)、そしてDimensionMasterの600~1000mmモデル(写真4右)を準備した。 |
図4 両検査間相違グラフ |
それらの詳しい解説はここでは控えるが、その結果として生じた差は全体にわたり
±0。5μ未満に収まっており、これは事前の理論的な予測範囲を超えるような
大きな値ではない。すなわち、結論として基礎的な要因の他には、目立った相違はほぼ
認められないと分析ができる。
最終的に、両検査間の「整合性の有無」もしくは、検査能力の妥当性となると、
実際の検査対象となる測定機の精度を加味することが必要と思われる。 |
この値は、メーカーが測定機の納入時に設ける規格であり、その機器にとって最も厳しい
といえる許容値である。 |
|
製品紹介のまとめとして、DimensionMasterの導入効果を整理した。効果は大きく2つあげられる。
1は冒頭からテーマとしてきた課題の答えでもあり、単に課題の解消という範囲に
とどまらない製品品質保証を根拠立てる重要な効果といえる。
2は1の効果を得ながら同時にその活用方法を洗練していくことで減すことのできる外部への定期校正費用のことである。この点はユーザーによって考え方は異なるが、 DimensionMasterでなければ実現しにくい特有の効果といえるためあえてピックアップした。
最後に、DimenisonMaster及び同類のボールバー型の基準器の今後の動向について触れておく。
前述のとおり、次期JIS規格において基準器に例示されるボールバー等については
その動きに併せる形で、昨年2011年9月にJCSS(Japan Calibration Service System)
において、その区分「座標測定機用ゲージ」が新たに追加となった。
これにより、JCSS校正を定期校正の条件とするTS16949を認証する自動車部品系 製造企業などおいても、(独)産業技術総合研究所もしくはJCSS校正されたボールバー 基準器を用いた自主的な校正が実質的に可能となった。
又、関連した動きとして、某大手自動車メーカーでは、昨年にDimensionMasterの 類似モデルを、工場内のすべての測定機に配置するという採用事例も発生している。
このように、ごく最近ではあるが徐々にこの種のマスター普及の兆しが見え始めている。 弊社はこうした動きが今後もある程度の継続性を持って進んでいくもの予測しており、 その中での一選択肢としてDimensionMasterがユーザーの皆様に貢献できるよう 注力してくつもりである。